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2021/03/18

古英国料理「ミノウ・タンジ―」を復元する

■1653年…

英国で出版された、(淡水魚)釣りの名著、
アイザック・ウォルトン著「釣魚大全」
〔 Izaak Walton”The compleat angler”〕

Faceofthecompleteangler

https://fiftywordsforsnow.com/ebooks/angler/

の、第18章に、

原文をしめすと

And in the spring they make of them excellent Minnow-Tansies; for being washed well in salt
, and their heads and tails cut off, and their guts taken out, and not washed after,---they prove excellent for that use; that is, being fried with yolks of eggs, the flowers of cowslips, and of primroses, and a little tansie; thus used they make a dainty dish of meat.

と、"monnow-tansies"なる料理が登場します。

■このように…

非常に短い文なのですが、というより、非常に短い文だけに、これが一筋縄では行かないのです。

とりあえずの、google 君の翻訳では

春に彼らはそれらを優れたミノータンジーにします。 塩でよく洗い、頭と尻尾を切り落とし、内臓を取り出して洗わなかったため、その用途に優れていることがわかりました。つまり、卵黄、カウスリップの花、サクラソウの花、そして少しタンジーで揚げられています。 このように使用されて、彼らは肉の可憐な料理を作ります。

と、結構突っ込みどころの多そうな訳文で、いわば「定訳」といえるものは後程ご紹介するとして、まずは順番に文章を追って、課題を抽出してゆくことにします。

1 "Minnow"とは…

 和名で ヒメハヤ - Wikipedia

 コイ科の魚ですが、同じハヤの仲間が体長数10センチになるのに対し、このミノウは、体長5~6センチなので「ヒメ」が付いているのでしょう。

Wild Minnows Fish in Aquarium - YouTube

 ウォルトンの本国のブリテン島を含みユーラシア大陸全般に分布すると言われているものの、残念ながら東限が韓国の由。

 日本で、似たような魚を探すと、琵琶湖が原産とされる、これもコイ科の

 ホンモロコ - Wikipedia

 のような魚と考えてよさそうなのですが、これも今や高級魚。

  もろこ照煮 / しじみ時雨煮 | 元祖阪本屋 (sakamotoya.biz)  参照

 手軽に代替品を手に入れるとすると、サケ・マスの遠縁らしい、アユなども含むキュウリウオ科ではありますが

  ワカサギ - Wikipedia

 あたりかと思います。

 実は、ミノウは、この大全の中に頻繁に登場するものの、それは、人の食用としてではなく、魚の食用、つまり、とくにサケ・マス系の魚の釣餌としてとりあげられているのがほとんど。

【参照】 How To Hook A Minnow 7 Ways - Seven Best Ways To Hook A Minnow Dead Or Alive - YouTube

 その有効性は、メップスという会社が、回転翼の後ろに樹脂製のミノウを取り付けた、
 名作!メップスミノーの今!! | キャット&テイルχ! (ameblo.jp)

というルアーを、かれこれ50年、製造し続けていることからもわかります。

2 "Tans〔y|ies〕“とは…

 名前の中にあるとおり、この料理の肝心のハーブのようなのですが、現在は微毒性があることが明らかになっているので、食用にはできません。
 したがって、後述の他のハーブ同様に代替品を探す必要があるので、後にそれらとまとめて検討することにします。

3 "washed … in salt"とは…

この部分、いわば定訳といてってもよいかもしれない、森 秀人・訳「完訳 釣魚大全」角川選書/1974・刊(以下「定訳」と呼びます)では

 「この魚を塩水でよく洗って」

と訳されています。

「塩水で洗う」というのは、魚の一般的な調理法というか洗浄法なので、従来はさして違和感を持たなかったのですが、

・原文を見ると「水」には言及していない
・塩でこすってヌメリや臭いを落とすのも魚の調理/洗浄法の一つである

ので、これは、「塩で洗浄する」のか「塩水で洗浄するのか」きちんと解釈する必要がありそうに思えました。

 そのため、冒頭の原著へのリンク先の pdf では、文字列検索ができるので、”salt” and"watar”で検索をかけると、

・大半が”salt water”で、サケ・マス系の魚が海水域に移動するとの趣旨のものでしたが…

・9章のコイの調理法の解説の中に

  "Take a carp, … scour him, and rub him clean with water and salt, but scale him not;"

 という一節があって、水と塩を併用して魚を洗う場合は、そのことを明記していることがわかります。

 したがって、このミノウ・タンジーの場合は「塩でこすって」調理/洗浄することを意味しているらしいのです。

 もっとも、一切、水を使わないのかというと、そうともいえず

・その直後の文節 ”and their heads and tails cut off, and their guts taken out, and not washed after ”を、
 おそらく、文脈からみて正確と思われる「定訳」では「頭と尻尾を切り捨てます。内臓を除いたらもう洗ってはいけません。」としているので、「内臓を取り出した後は」「水で洗ってはいけない」のであって、その前は「水で洗ってもよい」ことになります。

・しかし、その後の、調理の中で調味料として塩が挙げられていないことから、ミノウは淡水魚でもあり、全くの塩抜き料理とも考えにくいのです。

 結局、魚の体表についた塩を「ざっと」洗い流す程度には水で洗うと、解釈するのが(想定される味の面でも)一番正しいのではないかと思われます。 

4 "being fried with yolks of eggs"とは…

 後段の”yolks of egg”は、卵の黄身(複数形)ですが、なぜか白身と訳している人もいるので、要注意です。

 それはともかく、前段の ”fried” (現在形で fry)の解釈が難しい、というのは、日本語に落とそうとすると、訳が複数あるためです。

 日本語化した英語にストレートに変換すれば、「アジフライ」のように、「たっぷりの油で揚げる」ことになります。

 しかし、"fried egg"は、日本語では「目玉焼き」なのですから、「油を使って焼く」という意味もあることも間違いないのです。

 (当然、ドイツ風の「シュニッツエル」のような、「ひたひたの油で揚げ焼きする」のも fry の範疇に入ることになります。)

 実際に、英語圏の人達の間でも、この部分の解釈は分かれていて

 ・http://www.theoldfoodie.com/2006/02/flowery-fishy-and-fried.html

によれば、

Secondly, you can use today’s primroses and cowslips in this recipe for your next catch of minnows, from Isaak Walton’s Compleat Angler” published in 1653. A “tansy” was a sort of eggy quiche-like pudding which took its name from the herb from which it was originally made (which is poisonous in quantity!).

とされていて、いわば「卵とじ」。スパニッシュ・オムレツ、あるいは、油は使わないものの、ドジョウの柳川みたいな料理ということになります。

 一方、

 ・https://app.ckbk.com/recipe/good55004c03s001ss003r024/minnow-tansies
  
  によると、

Fry them in a little fat as you would any other fritter.

とあり、こちらによれば、「衣揚げ」。原文にあるようなフリッターや天ぷらのような料理ということになります。

 これらのうち、どちらが正しいのかは、非英語圏の当方には、なかなか判定しにくいのですが、後者のように解釈しているものが多いように思えます。

5 the flowers of cowslips, and (the flowers) of primroses", and a little tansieについて

 ・cowslips

キバナノクリンザクラ - Wikipedia

cowslipの画像 at Wiki(Jp)

なお、

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/a6/Illustration_Primula_veris0_clean.jpg/800px-Illustration_Primula_veris0_clean.jpg

「天国の鍵」と呼ばれた春の花『カウスリップ』 | 鈴木ハーブ研究所 (s-herb.com)

によれば、日本でも、原種ないしそれに近いものが、栽培用に入手可能な模様。

 ・primroses

  プリムローズ - Wikipedia

  によれば

  サクラソウ科Primulaceae)の英名。

特に、サクラソウ科サクラソウ属プリムラ・ヴルガリス英語版Primula vulgaris)のこと。和名イチゲサクラソウ・イチゲコザクラ。

primrose の画像 at Wiki(eng)

http://blog-imgs-70.fc2.com/t/e/k/tekukame/201404080607381fe.jpg も参照

 

秋の訪れを告げる『イブニングプリムローズ』 | 鈴木ハーブ研究所 (s-herb.com)

によれば、同系の14種が日本にも帰化している由。そこいら辺の野原でもみつかるかもしれません。

この、最初の二つは、どちらもサクラソウ科で、どんな味がするのかと調べてみたら。

 ひとひらで2度おいしい 食べるお花、極上スイーツに|NIKKEI STYLE

に、
   ■プリムラ
    【出荷時期】12月上旬~4月中旬
    【特徴】別名サクラソウ。刺し身のツマとして1960年代から生産されている

と書かれていますので、細かいことにこだわらなければ、デパートや大型スーパーで案外簡単に入手できるかもしれません。

 このサクラソウ科の2種。ハーブに両方使う以上は、味に違いがあるはずで、どう違うのかが興味深いところです。

tansie

タンジー - Wikipedia

   和名はヨモギギク

Photo_20210318093501
かつて庭にいたタンジ―。
毒性のあることを知る前に、苗を買って植えたのですが、いつの間にか消えてしまいました。

 この、タンジーは、料理名中にあることから、この料理の味のキーになるハーブ/スパイスのはずなので、どうしても毒性のない代替品が必須。

 和名や写真のとおり「ヨモギ」のような「キク」ですので、同じ「キク亜科」の、草餅でおなじみの、

ヨモギ - Wikipedia

しか選択肢がなさそうです。

(タンジーに毒性があるとなると、同じ「ヨモギギク科」の植物は避けた方が安全でしょうし、ヨモギはヨモギ科と別の科ですが、食用できることは長い歴史が証明しています。
 なお、サクラソウ科でも、シクラメンは根に毒性があるそうです。)

 幸い、ヨモギなら、沖縄由来のものが我が家の庭にほぼ野生していますので

Dsc01796s

(同地ではヤギ汁などの匂い消しに使う)、入手に苦労はありませんし、鉄道の線路際に自生していることも多いので、それと特定できれば、ですが、踏切脇などで案外身近に「天然物」を入手できるかもしれません。

■再び、調理法について

 さて、話は、柳川型なのか天ぷら型なのかの問題に戻ります。

 最初に作ってみたのは、もう15年以上前。

 北海道から送っていただいた、トレトレのワカサギを、卵黄に(冬場でヨモギの若芽がないので)シソ科ながらオレガノのフレークを加えて衣にして、定訳通り「揚げた」のですが、もちろん、不味いものは全く使っていないので当たり前ながら、美味しいに決まっていて、その後も何回か作ったものの、原文を読んでみると、一つの疑問が残ります。

 タンジーの方は、"the flowers of"が前置されていないので、葉を使う模様。それなら、天ぷら型でも、刻むなりしりて衣にブレンドすることはできますが、"cowslips"と"primroses"の花の方は、どうやって衣にブレンドするのでしょう?

 これが、柳川型ならば、頭と尻尾と内臓を取ったミノウを含めて、全部を「丸っぽ」のまま、卵黄にいれて、油を引いたフライパン(旧い料理の話なので使うのはスキットルか?)などで一気に焼き上げることができます。

 味の面でも、材料は同じなので天ぷら型とそれほど大きな違いがないと思われるのです。

 つまり、先ほどあげた少数説の柳川型も、調理法としてかなりの合理性がありますし、加えて、こちらの方が「卵たっぷり」のうえ、うまく花弁が表面に残ってくれれば、ゴージャスで理想的。

 この点、なにか新知見がありましたら、ここに追記することにします。

 

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